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銀微粒子構造が引き出す常温高性能のフレキシブル熱電フィルム

  • 研究成果

β-Ag₂Se(セレン化銀)は、その優れた機械的特性と生体適合性から、ウェアラブル型熱電発電素子に非常に有望な材料とされています。しかし、これまでAg/Seの組成比の調整や第二相の導入といった従来の手法では、電力因子の最適化には限界がありました。 

本研究では、スパークプラズマ焼結中に金属銀から銀セレン化物へと銀イオンを移動・析出させることで、フレキシブルなAg/β-Ag₂Se複合膜中に大きくかつ結晶的連続性を持つAgリッチナノ析出物を形成する新たな戦略を提示しました。 

その結果、303K(約30℃)において4000 μWm⁻¹K⁻²を超える前例のない高い電力因子を達成。これらAgリッチナノ析出物は以下の点で大きな役割を果たします: 

  • キャリア濃度の増加 
  • 有効質量(density-of-states effective mass)の向上 
  • 相界面や音響フォノンによるキャリア散乱の抑制 

さらに、最適化された5枚のフィルムを用いた熱電モジュールは、26.0 Kの温度差で10.89 μWcm⁻²K⁻²の規格化出力電力密度を示しました。 

本研究は、β-Ag₂Seベースの熱電材料における電気性能向上の鍵としてAgリッチナノ析出物の形成が極めて有効であることを明確に示しています。ウェアラブルデバイスなどへの応用に向けた、熱電材料開発に新たな道を拓く重要な成果です。 


●筑波大学高等研究院関連著者

西堀英治教授 筑波大学数理物質系/エネルギー物質科学研究センター(TREMS)/ホウ化水素研究センター(HBRC)/高等研究院

●題名

Coherent Ag-rich nanoprecipitates/β-Ag2Se flexible film with unprecedented thermoelectric performance by liquid-like sintering

●掲載誌 Nature communication 16, 6010 (2025)

●DOI 10.1038/s41467-025-61079-4

ホウ化水素研究センター (HBRC)

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