筑波大学人工知能科学センター(C-AIR)の研究チームは、会計監査における仕訳データの異常検知を、企業間で生データを共有することなく、あたかも企業間で生データを共有したかのような高精度で実現する新しい連合学習手法を開発しました。本研究成果は、国際科学誌 Scientific Reports に掲載されました。
異常検知は、会計監査において極めて重要です。しかし、貸借対照表や損益計算書の基礎となる複式簿記の仕訳データは機密性が高く、個別企業のデータのみを用いて異常をチェックすることが慣習となってきました。多くの場合、このチェックは属人的に行われています。この慣習に対し、共通の機械学習モデルを共有する一般的な連合学習を用いた連合異常検知が応用できそうですが、そのためにはセキュリティレベルが高い会計データベースへの外部からのインターネット常時接続が必要となり、この点が科学技術として克服すべき重大な壁となってきました。
筑波大学が今回開発した手法は、次元削減した中間表現データのみを一度だけ外部へ通信するデータコラボレーション解析技術を採用しています。これにより、セキュアに組織の壁を越えて連合異常検知を行い、仕訳異常検知の精度を向上させることが可能になります。現実の診療所の仕訳データを用いたラボ実験では、提案手法が従来手法を上回る精度を達成し、不正リスクが特に高いと考えられるローカル異常*の検知においても優位な性能を示しました。
本研究成果は、会計監査業務のDXや公共性ある会計社会知能の創生に貢献することが期待されます。
*ローカル異常:「借方(左)の勘定科目、貸方(右)の勘定科目、金額」という複式簿記の独特な仕訳データの構成について、ある仕訳記録の構成が全体として違和感がある状況
論文情報
掲載誌:Scientific Reports
論文タイトル:Anomaly detection in double-entry bookkeeping data by federated learning system with non-model sharing approach
DOI:https://doi.org/10.1038/s41598-025-26120-y
著者情報:
益子 颯太 筑波大学大学院サービス工学学位プログラム
河又 裕士 筑波大学システム情報系特任助教
中山 友琉 筑波大学大学院サービス工学学位プログラム
櫻井 鉄也 筑波大学システム情報系教授
岡田 幸彦 筑波大学システム情報系教授(研究代表者)
