スイスのジュネーブ近郊にある「ヨーロッパ共同原子核研究機構(CERN)」では、LHC(大型ハドロン衝突型加速器) を用いて重イオンを加速、 衝突させ、ビックバン直後の宇宙初期に存在していたとされる物質相「クォーク・グルーオンプラズマ(QGP)」 を生成、その性質の解明に挑むLHC-ALICE実験を行っている(図1)。ALICEは、LHC内に設置された検出器の一つで、関畑助教は「ALICE実験検出器を用いたQGP相の初期状態特定」というアプローチにより、宇宙初期の解明に挑み、最終的には宇宙の進化の追究につなげたいと考えている。

出典:https://cds.cern.ch/images/CERN-PHOTO-202309-223-1
図1.ビッグバンから10マイクロ秒後の初期宇宙を再現する鉛+鉛原子核衝突の
イベントディスプレイ
熱輻射による光子のエネルギー分布を解析し、QGP相の温度を測定
LHC-ALICE実験では、鉛原子核同士をほぼ光速で衝突させて、クォークとグルーオンが高温・高密度下で自由に動きまわるQGP相をつくり出しています。QGP相からは熱輻射によって仮想光子(量子力学的な効果によって短時間だけ存在する光子)が、他の粒子と相互作用をすることなく飛び出し、電子と陽電子に崩壊します。私の実験グループは、それをALICE実験検出器によって捉え、観測しています。そして検出器の応答のシミュレーションをし、測定効率を導き出して実測値を補正することも並行して行っています。シミュレーションでは、実際のデータの位置分解能や、粒子が飛んでいた場所をより正確に再現することが求められており、ソフトウエアの開発や改善にも力を入れています。
観測された「光子のエネルギー分布の傾き(図2)」が、ある誤差範囲に収まるまでデータを集めることができれば、QGP相の温度を測定できたと言えるのですが、2025年8月現在、データ量は目標の半分程度です。改良された検出器を2022年から使いはじめ、取得できるデータ量が以前の100倍に増えましたが、まだ道半ばで、2026年6月までに測定が完了することを目指しています。

図2.電子対に崩壊した仮想光子の不変質量分布の傾き(作成:関畑 大貴)
責任者として研究グループを牽引
研究グループにはドイツやフランスなどの研究者が20人ほどいますが、現在、グループのリーダーと実験データ取得の責任者を務めています。研究者が希望しない役割を配分したときの折り合いのつけ方や、研究が予定通りに進捗していないときの指示出しに苦労をしていますが、取得したデータのクオリティーがすぐわかるといった責任者ならではの強みやありがたさを感じることもあります。海外の研究者との議論は長時間にわたることも多いのですが、持ち前の体力を生かして、日々の仕事に取り組んでいます。
QGP相の解明から宇宙の進化の追究へ
QGP相が冷えるとクォーク同士がくっついて陽子などのハドロン相になりますが、これまでの私の研究で、ハドロン相の温度測定につながる電磁放射を捉えることができました。今後は、光子の角度分布も測定し、QGP相の特徴を表す粘性も明らかにしたいと考えています。仮想光子のデータ量が足りないため誰も挑戦していない新しい試みなので、私ならではの研究成果にしたいと期待しています。
QGP相がどのようにつくられたのかを解明することはもちろん、最終的には宇宙がどのように進化してきたのかを追究するのが私たち研究者の究極のゴールです。そのためにも、大学教員という立場から、より多くの学生に実験の楽しさを広め、科学に興味をもってもらうような教育をすることも私の使命だと考えています。
(取材日:2025年7月29日)
