超音波を使って物体を浮かせて操作する「音響浮揚」とそれを高精度で実現するための「波面ホログラム」。伏見助教はこれらの技術により、デジタルの世界と物理の世界の融合を目指している。
超音波の波面を使って物体を操作
私の研究テーマは、「音響浮揚」と「波面ホログラム」です。音響浮揚とは超音波を使って小さな物体を浮揚させ、思い通りに操作する技術、一方、波面ホログラムとは音響浮揚を行うための設計技術です。
物体を浮揚させるには、音波の波面(音の場)を人工的に設計して再現する必要があります。波面とは位相が同じ点を結んだ面のことです。たとえば、水面に石を落としたときに円形に広がる波紋も波面です。音波にもこのように位相がそろった波面が存在します。この波面の集まり方を変えることで、空間の特定の位置に音波の力を集めることができ、それにより物体に直接触れることなく、しかも複数の物体を同時に操ることができます。
2014年、複数の「超音波振動子」を搭載した「フェーズドアレイ型音響浮揚機」の開発を機に、波動を利用した非接触操作技術の研究が本格的に進展しています。フェーズドアレイ型音響浮揚機(図1)とは、超音波の干渉を精密に制御することで、空中に物体を安定的に浮揚させる装置です。ここで用いられる超音波振動子は、電気エネルギーを超音波へと変換する基幹部品であり、システム全体の性能を左右する重要な要素です。電子制御技術の発展により超音波振動子を高精度かつ動的に制御する技術が確立され、物体を非接触のまま三次元空間内で自在に移動させることが可能となりました。
音響浮揚の技術は、化学や医学など幅広い分野への応用が期待されています。化学分野ではロボットによる自動実験が進められていますが、薬品を非接触で移動させたり混ぜ合わせたりできればロボットよりも高効率になり、製品の生産コストも低減できます。
物体を非接触で思い通りに動かすには、そのための波面を最適化する技術が不可欠です。そこで、私が取り組んでいるのが、理論計算により波面を設計し、コンピュータ制御により超音波振動子を操り、目的に応じた波面ホログラムを実現する技術の開発などの基礎研究と応用研究です。

図1:超音波フェーズドアレイ
超音波振動子を複数個敷き詰め、個々の振幅と位相を調整することで任意の音場を生成する。
(作図:頃安祐輔(筑波大学デジタルネイチャー研究室))
触れることができる立体投影ディスプレイ
私が注力している応用研究に、音波を用いて物体を浮遊させ、その浮遊体を高速移動させることで実現する「立体ディスプレイ」(写真1)があります。
波面ホログラム技術を使うと、空間の特定の位置に物体を浮遊させることができ、これを高速に移動させることで残像効果を作り、直接的に触れることができる立体投影ディスプレイができます。
また、私の研究室では、撥水メッシュの上に設置した液滴を超音波を用いて操作することで、化学実験を自動化できる手法を開発(図2)し、特許出願を行っています(特開2024-018667)。
超音波フェーズドアレイに関する技術はオープンソースなので誰でも利用できます。その活かし方はアイデア次第で、可能性は無限大です。これには玉手箱の中から宝ものを発見するような面白さがあり、私はこれがこの研究の一番の魅力だと感じています。

写真1:立体投影ディスプレイ
独自に開発した立体投影ディスプレイは、音響浮揚により浮遊する微小な粒子をLEDの照射下で、
空間中を高速に移動させる。それによりPCやスマートフォンの情報を空間に表示する。
(撮影:伏見龍樹)

図2:実験を自動化する超音波フェーズドアレイ
撥水メッシュ上に液滴を設置することで、液滴を超音波を用いて操作し、実験を自動化するシステム。
(作図:頃安祐輔(筑波大学デジタルネイチャー研究室)。
Y.Koroyasu, et al., Microfluidic platform using focused ultrasound passing through hydrophobic meshes with jump availability,
PNAS Nexus, Volume 2, Issue 7, July 2023, pgad207,
https://doi.org/10.1093/pnasnexus/pgad207 の図を著者として和訳)
国際共同研究チームで、さらなるブレークスルーを目指す
私の研究チームの強みの1つに、国際的な人的ネットワークがあります。私は9~18歳までドイツで過ごし、その後、英国のブリストル大学の博士課程のときに音響浮揚と出合いました。2020年に筑波大学に異動してきましたが、現在は海外の著名な研究者とのネットワークを活かし日本と海外の研究者を繋ぎつつ、この分野を牽引していきたいと考えています。
今後もこの魅力を共有できる強力な人的ネットワークを構築し、未来に向けて研究を加速させていきます。
(取材日:2025年7月31日)
