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水素化チタンの水素放出温度を劇的に下げる鍵は「ナノサイズ化」

  • 研究成果
―表面酸化層の障壁を上回る効果を解明―
研究の背景

チタン(Ti)およびその合金は、高い耐食性、生体適合性、優れた機械的強度を備えているため、航空宇宙、生物医学、エネルギー産業などで幅広く応用されています。特に水素化チタン(TiH₂)は、水素を可逆的に吸蔵・放出できる安定な金属水素化物であり、水素貯蔵材料や触媒、発泡剤などとしての利用が期待されています。 しかし、水素の吸蔵は材料の脆化や亀裂を引き起こし、機械的な故障につながる恐れがあるため、Ti相内での水素の移動や放出挙動を理解することは、実用化において極めて重要です。これまで、粒子径や表面酸化層が水素放出に与える影響については理論的な計算やシミュレーションが先行しており、直接的な観察を含む実験的な裏付け、特に表面酸化層の具体的な役割についての包括的な理解が不足していました。

研究内容

本研究では、ボールミル粉砕されたTiH₂からの水素(H₂)放出メカニズムを、以下の要素を系統的に分析することで調査しました。
・粒子径の影響: 結晶子サイズと粒子径の変化を分析。
・表面酸化層の影響: ボールミル後に意図的に再酸化させる手順を導入し、粒子径の縮小と酸化層の効果を切り分けて評価。
・ボールミル雰囲気の影響: 不活性なアルゴン(Ar)雰囲気と、窒化物を形成する可能性のある窒素(N₂)雰囲気を比較。

主な成果

・サイズ縮小による放出温度の低下: ナノスケールでの結晶子・粒子径の減少が、水素放出の開始温度(onset temperature)および第1段階の放出温度を大幅に低下させることを明らかにしました。これは、粒子径が小さくなることで拡散距離が短縮され、表面反応が律速段階となるためです。
・表面酸化層の役割: 表面酸化層は水素の脱離障壁をわずかに高めるものの、粒子径縮小による温度低下効果に比べれば副次的な役割にとどまることが分かりました。
・放出段階のメカニズム解明: 水素放出は3つの段階を経て行われますが、第1段階は表面制御された脱離プロセスであるのに対し、第2・第3段階は表面反応ではなく、バルク内での分解、相転移、および水素拡散が組み合わさったプロセスによって制御されることが判明しました。
・酸化層の構造変化の直接観察: その場TEM観察により、表面酸化層は400℃以下ではアモルファス状態であり、500℃付近で還元または結晶化することが確認されました。これが第1段階の放出終了と相関しています。
・雰囲気の影響: Ar雰囲気での粉砕はN₂に比べて粒子がより細かくなり、放出温度も低くなります。N₂雰囲気では表面にTiOやTiNが形成され、これが拡散を妨げたり粒子の再凝集を促したりすることが示唆されました。

今後の展望

本研究で得られた知見は、チタンベースの水素貯蔵材料の最適化に向けた貴重な洞察を与えるものです。 ナノスケールでの構造制御と表面化学が熱力学的挙動にどのように影響するかという包括的なメカニズムが明らかになったことで、より効率的で高性能な水素貯蔵材料や機能性材料の設計指針となることが期待されています。また、表面の酸化状態を制御することで、水素放出特性を微調整できる可能性も示唆されています。


論文タイトル:Mechanistic insight into hydrogen release from ball-milled titanium hydride: Roles of particle size, surface oxide layers, and ball-milling atmosphere
掲載誌:Journal of Alloys and Compounds Communications
DOI: 10.1016/j.jacomc.2026.100203
https://doi.org/10.1016/j.jacomc.2026.100203
著者:(筑波大学ホウ化水素研究センター)
大木 理 助教
近藤 剛弘 センター長
松田 巌 客員教授

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