筑波大学高等研究院

Pursuing Knowledge, Crossing Frontiers. 未知領域への挑戦者たち

未知領域への挑戦者たち

自発研究ユニット 助教

東 弘一郎 芸術系 助教

共創するパブリックアートの力

現代美術作家である助教目指すのは、作家と職人と地域が共創する制作モデルを確立し文化や言語の壁をこえたその価値を社会に実装すること人が関わりたくなる、関わると何かしてあげたくなる、とい東助教の印象が、まわりの人いつの間にか巻き込んで自ずと大きな熱を生むのかもしれない。 

始まりは地域との関わり 

私は大学で現代アートを学びましたが作品の題材に悩み、何かヒントになるものはないかと、大学のキャンパス(茨城県取手市)周辺をぶらぶら歩いてみたのです。すると地域の人達が親切にしてくださり、地元の競輪場や自転車を使った町おこし計画など、いろいろ話してくれて、題材に困っている私に、「乗らないからあげるよ」と何台もの自転車を譲ってくれたのです。そのうちに私の噂が広がって次々と自転車が集まるようになり、それらを組み合わせて一つの大きな作品をつくったのが卒業制作です。 

その後、コロナ禍の影響で制作を続けられず、知り合いの鉄工所にアトリエを間借りしました。そこで図らずも、プロの職人たちから高い精度についての技術を学ぶことができたのです。制作過程を一緒に楽しみ、いろいろなアイデアを提案してくれました。この経験から、私は自分の作品制作にとって、他人と関わること、コミュニティと関わることの重要性に気づくことができました。 

無限車輪(2021年)(撮影:東 弘一郎)

作品の価値とは 

グループワークによる制作過程では多くの会話が生まれます。「おおみかアートプロジェクト(茨城県日立市)」や「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ(新潟県十日町市、津南町)」(写真)などのプロジェクトにおいては、それが地域規模のグループワークになりました。結果としてアーティストと地域コミュニティの双方が刺激し合って、活性化しました。これまでアートと関わりがなかったような人たちが、初めての体験により、自分たちの日常に改めて価値を見いだし、モノだけではなくエナジーが生まれたのです。 

 

除雪車(ロータリー除雪車)をモチーフにしたアート作品を七和の職⼈たちと共に制作(撮影:東弘一郎)https://geidai.repo.nii.ac.jp/records/2000644 図版79 

クリストとジャンヌ=クロード夫妻により1991年に開催された「アンブレラ(The Umbrellas)」(参考)という環境アートは、大規模な空間に傘を設置するもので、太平洋をはさみ日米で同時に開催されました(米国カリフォルニア州・茨城県常陸太田市)。 
アメリカの乾燥した大地では、鉄の中に杭を打って基礎を設置しましたが、日本の軟らかい地盤ではうまくいきませんでした。コンクリートのブロックを使うことでそれを解決したのが日本の建築業界の人たちです。地域の特性を知っているからこそ、コミュニケーションの中で答えを出すことができたのです。私も地域の職人のネットワークを見つけて、その要素を作品の一部に取り入れます。 地域のリソースを活用することで「地域の作品」としての価値が生まれると感じています。 

海外での挑戦 

私は今、マイアミビーチ(米国フロリダ州マイアミ市)にあるフラミンゴ・パーク(Flamingo Park)に高さ8mほどのパブリックアートを設置する同市のプロジェクトを手掛けています。これまで築いてきた制作モデルが海外でも受け入れられて、価値のある作品をつくることができるか、大きなチャレンジです。 
東京ドーム3倍弱の広さがあるこの公園は、地域の人々の憩いの場所です。公園の名前にゆかりのある「フラミンゴ」のシンボルがほしい、という市民の声が市議会を動かしました。現在、地域のいろいろなコミュニティと連携して制作を進めています。 マイアミでは「アート・バーゼル・マイアミ・ビーチ(Art Basel in Miami Beach)」という有名なアートフェアが毎年行われています。人々の気持ちが高額な作品に向かいがちな中で、私のボトムアップ的な制作モデルがアートの世界に一石を投じることができるか、まさに挑戦だと思うのです。
芸術家が、アートという「モノ」をつくるだけではない、人と人とをつなぐ存在として認められたら、パブリックアートの制作は、地域コミュニティに良い変化をもたらすことができます。このような夢をもちながら、共創するアート制作モデルの社会実装を目指しています。 

(取材日:2026年1月29日)

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