澤田助教は、フィールド調査を中心に里山にすむ爬虫類や両生類の生態や環境との関わりについて研究している。来年からは調査場所をケニアに移し、生物多様性を守るとともに貧困問題も解決できる環境のあり方を追究する予定だ。
ヘビの生きざまを知りたい
里山(写真1)は、人と自然が共存するところです。里山の生態系を支えるヘビやカエルの存在は、生物多様性の豊かさを示しています(写真2,3)。佐渡島には、「世界農業遺産」に選ばれるほど豊かな里山の環境があり、南西諸島を除く日本の島の中で最もヘビの種類が多い場所です。
5年間にわたって年に2回ずつ佐渡島に長期滞在し、ヘビを探し続けたことで、その食性や生息場所、活動する時間帯によってグループに分けることができました。グループ分けすると、食性の似たヘビたちは、生息場所や活動時間帯を変えることで餌を分け合うように「すみ分け」をしていることがわかりました。そのようなすみ分けをするのに十分な資源があるため7種類ものヘビが共存できていたのです。

写真1:山林や水田からなる里山の風景(撮影:澤田聖人)

写真2:シュレーゲルアマガエルを捕食するニホンマムシ(撮影:澤田聖人)

写真3:里山のモリアオガエル(撮影:澤田聖人)
外来のカエルの影響を受けるヤマカガシ
ヤマカガシ(写真4)は有毒なヒキガエルを食べ、ヒキガエルの毒を体内に蓄えるヘビです。毒を手に入れたヤマカガシは、敵が来たとき身を守るためにこの毒を利用します。一方、ヒキガエルが生息していないところのヤマカガシは毒をもたず、地域で差があります。
佐渡島にはヒキガエルはいなかったのですが、60年ほど前に外部からヒキガエルが持ち込まれ、定着した地域のヤマカガシは毒をもつようになったことが調査で明らかになりました。中南米産外来種のオオヒキガエルが持ち込まれている台湾でも調査しましたが、ヤマカガシはオオヒキガエルの毒に耐性がなく、食べると中毒死してしまいました。いずれのケースでも、外来ヒキガエルが増えると、在来のヤマカガシや生態系のバランスに影響を与えることが示唆されました。

写真4:ヤマカガシ(撮影:澤田聖人)
生物と人が共存できる環境とは
大学に近い筑波山周辺の水田を調査すると、かつて、ヘビやカエルなど生物の種類が豊富だった水田も、水路がコンクリートになり、農作業の機械化が進んで、生物の種類が減っていました。例えば、1990年頃は複数種類のカエルがバランスよく生息していた水田が、2020年頃には1種類のカエルのみが大半を占めるようになっていました。カエルは水田の生物多様性を示す指標で、カエルが減った水田は、ヘビが減り、一方で蚊などの害虫が増えて人にとって好ましくありません。生物と人がともに生きていくために適した里山や水田の管理の在り方を考えることが重要です。
今度は、これまでの里山研究で得た知見をもとに、ケニアで調査する予定です。人口増加や貧困の問題を抱えるケニアでは、食料の安定供給を目指し、稲作を進めています。農地を大幅に広げている一方で、砂漠化が進み、生物の種類が減っています。日本では、里山を維持することで、生物多様性が守られ、農産物も安定的に生産されているように、ケニアでも里山のような環境があれば、生物の多様性を失うことなく、米の生産量を高めることができるのではないでしょうか。
水田という自然の力を利用して、砂漠化という生態系の問題と貧困という人間社会の問題の両方を解決する「ネイチャー・ベースド・ソリューション(自然に基づく解決策)」を示すことを目指しています。まず水田という新しい湿地が、砂漠化で奪われた生物のすみかになるのかどうかという視点で調査します。人と自然が共存するためには、現地の農業や経済との関わりまで考えることが必要です。多くの人たちに協力してもらいながら、研究を進めるつもりです。ケニアでどんな生物や人々に出会えるか、新たな挑戦にワクワクしています。