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筑波大学高等研究院

Pursuing Knowledge, Crossing Frontiers. 未知領域への挑戦者たち

未知領域への挑戦者たち

自発研究ユニット フェロー

落合 陽一 図書館情報メディア系 准教授
デジタルネイチャー開発研究センター長

デジタルネイチャーと調和する心豊かな暮らし

  • # デジタルネイチャー
  • # メディアアート
  • # 人工知能
  • # ヒューマンインタフェース
  • # 計算機科学

メディアアーティストとして知られる落合陽一。その核は、コンピュータが遍在し元来の自然を更新する「デジタルネイチャー(計算機自然)」(※1)(※2)に根ざしたサイエンスだ。社会の変化が加速するいま、私たちが心豊かに生きる道筋を描く。 

デジタルネイチャーとは何か 

「デジタルネイチャー(計算機自然)とは何か」を一言で表すと「新たな自然観」です。コンピュータを人間の道具ではなく、新しい自然環境の一部として捉らえ、「物理世界」と「情報世界」の境界をなくしていくという考え方です。私の研究室ではこの考え方に基づき、今後、人類がデジタルネイチャーの中で心豊かに生きていくためには何が必要かを研究しています。 

実は、我々はすでに計算機自然の中で生きています。まず、2018年に発表された研究(※3)により、地球上の生物量(バイオマス)を炭素量に換算して総量を推定したところ、最も多いのは植物で約90%、一方、人間は1%以下であることが判明しました。ところが、2020年頃(※4)、これまでバイオマス由来の資源の総重量よりも軽かった人工物の総重量がバイオマスの総重量を上回るという逆転が起きました。今や多くの人工物にはコンピュータが搭載されており、これは計算機自然への移行の一面ですが、質量的な意味では我々はすでにデジタルネイチャーを生きているとも言えるのです。 

しかし、我々は、人工的な環境改変である田園風景(写真)を「自然豊か」と感じると同様にはデジタル社会を見ることができていません。それに対し、私はコンピュータ以後の新しい自然の中で生きる」という発想のもと、自然を捉え直 し、そこにある基礎技術と文化探究を続けながら計算機自然とは何かを明らかにしていくことに取り組んでいます。

 

図1:デジタルネイチャーでは、従来のような人が機械と協調して物を作る社会から、計算機自然において人工知能(AI)を実装した機械が自動実装したものを人が選ぶ社会に移行する(作成:落合陽一) 

きっかけは仮想空間と実空間を融合させる研究 

私が、仮想空間と実空間の融合に関する研究を始めたきっかけは、博士課程の頃に遡ります。当時、音響浮揚を研究していました。その背景には「映像でもあり物質でもあるものを作りたい」という願望がありました。音響浮揚は超音波を使って微粒子などの物質を浮かせ、コンピュータ制御により操作する技術で、コンピュータという仮想空間と物質という実空間を融合させるものです。この技術により、映像でもあり物質でもある「立体ディスプレー」が実現できます。  

音響浮遊に関する論文を発表するとともに、超音波で空中にパターンを描くインタラクション技術「ピクシーダスト」で2014年度にはSIGGRAPHという国際会議に採択され多くの賞を受賞しました。そして、2015年に研究室を立ち上げる際、映像でもあり物質でもあるものを抽象化した研究テーマを考える中で、たどり着いたのがデジタルネイチャーです。この辺をまとめて『魔法の世紀』(※1)という書籍を書きました。映像の時代から現実に情報が染み出す魔法の世紀に訪れるデジタルネイチャーと世界の再魔術化について論じた本です。 

思想と科学技術の両面からデジタルネイチャーにアプローチ 

思想の探求と同時に一人のアーティストの美学の追求としても作品制作を行ってきたのが私のユニークなキャリアだと思います。アーティストとしての作品制作と研究による技術開発を並行して行ってきました。 

研究面では人工知能(AI)と機械知能の協調関係、LLMとのインタラクションにも取り組んできました。生成AIの研究や実装も2015年頃から取り組んでおり、2023年の流行語大賞では「生成AI」で受賞するなど研究と社会との関わりを深く感じることもあります。 

近年の大掛かりの作品としては、大阪・関西万博のシグネチャーパビリオン「null2(ヌルヌル)」があります。これは、インタラクティブな生きる構造物であり、フィジカルとデジタルの境界を組み合わせ、計算機自然を体験する場として作ったものです(図2 

図2:null²パビリオン・内観・外観(提供:落合陽一) 

 

近年は思想と科学技術の両面から、デジタルネイチャーにアプローチしています。中でも、コンピュータの内部の仮想空間でシミュレートされるものと物理世界の実空間で動いているものとが、高速かつ自動的に融合しサイクルを作る方法を重要テーマに据えています(図3 

図3:(作成:落合陽一) 

大学というのは近視眼的ではなく、より複雑で深いことを考えることができる場です。計算機自然が訪れ、人間と人工物である機械との線引きがなくなった時に人間にどんな発明がうまれていくか、どうやって人が育つか、長い目で世の中をみてじっくり研究をしていこうと考えています。 

(※1) 落合 陽一.『魔法の世紀』.東京:第二次惑星開発委員会/PLANETS,2015 年11月.ISBN 978-4-905325-05-5. 
(※2) 落合 陽一.『デジタルネイチャー 生態系を為す汎神化した計算機による侘と寂』.東京:第二次惑星開発委員会/PLANETS,2018年6月15日.ISBN 978-4-905325-09-3(ISBN-10: 4905325099). 
(※3) Bar-On, Y. M., Phillips, R., & Milo, R. (2018). The biomass distribution on Earth: A census of the biosphere. Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America, 115(25), 6506-6511. DOI:10.1073/pnas.1711842115. 
(※4) Elhacham, E., Ben-Uri, L., Grozovski, J., Bar-On, Y. M., & Milo, R. (2020). Global human-made mass exceeds all living biomass.Nature, 588(7838), 442–444. https://doi.org/10.1038/s41586-020-3010-5 

 

(取材日:2025年8月26日)

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