筑波大学高等研究院

Pursuing Knowledge, Crossing Frontiers. 未知領域への挑戦者たち

未知領域への挑戦者たち

自発研究ユニット 助教

GUO Qiang システム情報系 助教

地域ごとの最適な熱中症警報指標の特定

地球規模で気候変動が進み、気温上昇が続くにつれて熱疲労や熱中症といった暑さが原因で起こる病気(熱関連疾患に苦しむ人々が増加している。こうした状況から市民を守るため、多くの国政府熱中症警報を発令している
しかし、これらの警報多く、気温だけに基づいており湿度などの他の重要な要因が十分に考慮されていないGUO助教は指摘する。 

湿度が熱ストレスを増大させる 

地球温暖化が人の健康に及ぼす影響は、数十年にわたり研究されてきました。これまでの多くの研究から、気温の上昇に加えて、日射量、地理的条件、風、そして特に高温と高湿度が組み合わさった状態が、熱ストレスによる疾患に大きく影響することがわかっています。 

人間の身体は、汗をかくことで体温調節をしています。しかしながら、温度も湿度も高い場合は、汗が蒸発しにくくなります。その結果、体内の熱が上手く放出されず、強い生理的ストレスが生じます。それにもかかわらず、多くの熱中症警報で湿度が十分に考慮されていません。そこで私たちは世界各国の熱ストレス指標(HSI)と死亡率や罹患率との相関を地域ごとに調べ、その共通点を明らかにすることにしました。 

世界規模の分析で見えてきた地域差異 

私たちは、43か国739都市における政府機関や保健当局などと協力し、気温や湿度、風速、日射量に加えて死亡率などの気候学データと疫学データを収集しました。これらのデータについて、統計モデリングと機械学習を用いて、湿度を含む様々な熱ストレス指標と、気温(Tair)のみの指標が、それぞれ熱関連死亡率とどのように相関しているかを比較しました。 

Best Heat Measures for Mortality (Based on qAIC Model-Fit Score) 

図1. 739各都市における日別熱関連死亡率に対する最適な熱指標
パネル(a):各都市における最適適合指標(BFI)を示している。これは、死亡率を最もよく予測する熱指標(単純な気温または温度・湿度指数)を評価する統計的指標qAICが最小となるものを指す。カラーバーは、各熱ストレス指標(HSI)がどの程度湿度を取り入れているかを示しており、低いもの(黄色)から高いもの(赤色)へと変化している。
パネル(b):各指標が死亡率の最適な予測因子と評価された都市の数を示している。多くの沿岸地域や湿度が高い地域では、湿度を考慮した指標が優れている一方で、一部の地域では気温のみの指標が最も有効であることが示された。 
Best Heat Measures for Mortality (Based on qAIC Model-Fit Score):死亡率に対する最適な熱指標(qAICモデル適合度スコアに基づく)Indicators with the minimum qAIC:最小qAICを用いた指標
Modified from Guo Q. et al., 2024: Regional Variation in the Role of Humidity on City-level Heat-Related Mortality, PNAS Nexus, 3(8), pgae290, DOI: 10.1093/pnasnexus/pgae290. Copyright 2024 Guo Q. et al. 

 

分析の結果、全体の約70%の都市(日本、韓国、ペルー、米国の多くの都市を含む)において、湿度を考慮した熱ストレス指標の方が死亡率との相関が強く、リスクをより正確に捉えられることが分かりました。これらの都市は、沿岸部や大きな湖・河川の近くにあり、高温と高湿度が同時に生じるなど、熱ストレスが高い環境にあります。一方、残り約30%の都市では、気温だけの指標でも高い予測精度が得られました。これらの地域(例:タイや南アフリカ)では、気温が上昇すると湿度は低下する傾向があり、湿度による追加的な熱ストレスが比較的小さいと考えられます。 

これらの結果は、特に湿度が高い地域では、気温だけではなく湿度などの要因も取り入れた指標を用いることの重要性を示しています。 

日本の熱中症警報システム 

日本の多くの都市では、夏は非常に高温多湿な日が続き、さきほどの「70%」に当てはまります。2021年、日本政府は全国的な熱中症警戒システムを改訂し、気温に基づく方法から、暑さ指数(WBGT:湿球黒球温度)に基づく方法へと変更しました。WBGTは、人が暑さによってどれだけ影響を受けるかの指標で、気温に加えて、湿度、日射量、風の影響も含んでいます。 

この指標の変更が適切かどうかを確かめるため、47都道府県を対象に、各種HSIを用いたリスク予測の精度を評価しました。その結果、死亡率については、2015~2019年の期間において、湿度を含む指標と気温だけの指標で大きな差はみられませんでした。一方、熱中症などの熱関連疾患に関しては、WBGTは一貫して気温のみの指標よりも優れており、発症リスクをより的確に捉えられることが明らかになりました。 

図2. 日本における猛暑日の特定に関する熱指標の比較  
本図は、暖候期(6~9月、2015~2019年の平均)における最も暑い10日間の発生時期における、さまざまな熱ストレス指標および気温(Tair)による検出結果の一致率(%)を示している。 
パネル(a):日本の47都道府県における湿球黒球温度(WBGT)と気温(Tair)により検出された最も暑い10日間の時期の一致率。
パネル(b):各熱ストレス指標(HSI)とTairとの一致率を、北から南の順に47都道府県で示したものであり、下部の凡例に使用したHSIが示されている。 
Guo Q. et al., 2024: Evaluating Japan’s revised heat-health warning system in the face of recent escalating heat stress, Environmental Research Letters, 19, 054002, DOI: 10.1088/1748-9326/ad3a81. Copyright 2024 Guo Q. et al. 

 

日本では急速に高齢化が進んでおり、高齢者は熱ストレスの影響を受けやすいことが知られています。熱関連疾患が増えると医療システムへの負担が大きくなるだけでなく、高齢者の場合は命に関わるケースも少なくありません。発症のピークをより正確に予測できれば、適切な注意喚起だけでなく、救急搬送、病院、クーリングセンター等が受け入れ体制を事前に整える上でも役立ちます。 

温暖化時代に向けた意義と今後の展望 

本研究の結果は、日本におけるWBGT導入の妥当性を裏付ける結果となりました。また同時に、熱関連疾患の発生に影響を与える環境要因について、現在進行中の科学的議論にも寄与するものです。ただし、気候条件は地域ごとに大きく異なるため、この知見を他の地域へ適用する際には注意が必要です。実際日本国内でも、特に南の地域では、使うHSI指標によって結果に大きな違いがみられました。そのため、各地域に合わせたHSI指標を選ぶことが大切です。ただ、日本のような高温多湿な環境では、湿度を含む指標が、熱関連疾患の発症をより正確に捉えられることは間違いありません。 

現在、私たちは人為的な気候変動の負の影響に適しつつも、それを緩和することのできる「気候スマート都市」の実現への貢献を目指しています。主な研究領域には、都市ヒートアイランド現象や都市の地表面や放射特性の最適化による都市温度調整、さらに都市のエネルギー転換や脱炭素化の支援などが含まれます。より健康的で快適に暮らせる都市を実現するために、都市環境の設計や改良についてさらなる研究を進めていきます。

(取材日:2026年2月12日) 

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