筑波大学高等研究院

Pursuing Knowledge, Crossing Frontiers. 未知領域への挑戦者たち

未知領域への挑戦者たち

自発研究ユニット 助教

永久保 利紀 生命環境系 助教

生物に保存された“ウイルスの残骸”の機能と応用への可能性

  • # 微生物学
  • # ウイルス
  • # 細菌
  • # 分子機構
  • # バイオテクノロジー

一般的に、ウイルスは生物にとっては排除すべき「敵」とされている。一方、多くの細菌ではウイルスの残骸が遺伝的に保存されており、永久保助教はそれが宿主に利益をもたらすことを明らかにした。生物とウイルスの間に「共存」という新たな関係を見いだすとともに、その機能が抗生物質やゲノム編集などへの応用にもつながる可能性がある。 

ウイルスの残骸の役割とは 

細菌は単細胞の非常に小さな生物ですが、細菌にもウイルスを排除するための様々な免疫システムが備わっています。その1つであるCRISPR/Casシステムは、ゲノム編集のツールとして広く活用されており、ノーベル化学賞に選ばれています。 

近年、多くの細菌において、ウイルスの残骸が遺伝的に保存されていることがわかってきました(図1)。おそらく、かつて感染したウイルスが免疫システムをかいくぐって細菌内に取り残され、進化の過程で遺伝的に保存されてきたのだと考えられます。 

図1:細菌に感染する通常のウイルス(左)は、遺伝情報を格納する頭部と、
その遺伝情報を標的細胞に打ち込む尾部から構成されている。
一方、ウイルスの残骸(右)は、頭部を欠き、感染性を失っている。(作図:永久保利紀) 

これまでの研究から、ウイルスの残骸は細菌の中でさまざまに進化し、宿主細菌に対して利益をもたらしていることを明らかにしてきました。生き物にとってウイルスは「敵」とされていますが、進化という長期的な視点で見ると、両者の間に「共存」という新たな関係性が見えてきたのです。  

「タンパク質送達ツール」としての応用に期待 

私は、放線菌という土壌細菌で、ウイルス様粒子の働きを調べてきました。解析の結果、粒子内には多様な機能タンパク質(エフェクター)が格納され、細胞膜を介して打ち込まれることがわかりました(図2)。このエフェクターの作用によって、宿主細菌内で多様な機能が発揮されているのです。 

図2:ウイルス様粒子の機能としくみ 
ウイルス様粒子にはエフェクター(黄色)が格納され、宿主の細胞膜にエフェクターが打ち込まれる。
エフェクターはゲノムDNAの断片化など、多様な機能をもち、
宿主細菌の生存に有利になる働きをしている。(作図:永久保利紀) 

最近は、このしくみを利用して、特定の細胞にタンパク質を送り込む「タンパク質送達ツール」として医療分野などに応用しようという研究が盛んになっています。 

ウイルス様粒子に格納するタンパク質は、人為的に入れ替えることができます。例えば、ウイルス様粒子にゲノム改変酵素を格納すれば、ゲノム編集のツールとして使うことができ、すでに海外のチームがこれを実証しています。 

一方、私が注目しているのは、抗生物質としての応用です。ウイルス様粒子に特定の微生物を攻撃するタンパク質を格納することで、病気を引き起こす微生物を体内から排除したり、腸内の特定の微生物を攻撃して腸内環境を改善したりするような活用ができるのではないかと考え、研究を進めています。 

放線菌のウイルス様粒子を研究しているのは、国内では私だけです。放線菌の扱いが難しく、粒子のタンパク質機能を解析することも容易ではないためです。そこで、培養やタンパク質操作の経験を生かし、多様な技術を組み合わせて独自の手法を構築しています。また、私が扱うウイルス様粒子は海外チームのものと異なり、格納するタンパク質も違うため、独自の機能をもつツールを開発できる可能性があります。 

微生物の機能はシンプルだからこそ様々な用途に利用できます。その潜在価値をさらに理解し、引き出していきたいと思っています。 

現在所属する筑波大学微生物サステイナビリティ研究センター(MiCS)では、微生物の振る舞いを物理学や生化学など多角的に研究しています。こうした研究者と連携し、基礎から応用へと発展するプロジェクトにしていきたいと考えています。 

(取材日:2025年7月16日)

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