ノックアウト(KO)マウスは、ヒトの疾患の発症メカニズムの解明や治療法の開発などで重要な役割を果たしている。久野助教は、ゲノム編集技術を用いたKOマウスの作製を支援するウェブツールを開発した。開発したツールを組み合わせることで、より簡単に信頼性の高いKOマウスを作製することを目指している。

生命科学を支えるKOマウス
特定の遺伝子を欠損させるKOマウスは、遺伝子の機能や疾患との関係を研究するための強力な手段です。以前はKOマウスの作製に多くの時間と労力が必要でしたが、ゲノム編集技術の登場で状況が劇的に変わりました。今では、短期間で簡単に作れるようになり、この分野の研究はますます盛んになっています。
ゲノム編集とは、DNA切断酵素を用いて、狙った場所の配列を切ったり、変化させたりする技術で、代表的な方法がCRISPR-Cas9です。
ゲノム編集の「前」には、どの部分を切るのかなど綿密なゲノム編集デザインが必要で、デザインを誤ると目的の遺伝子をうまくKOできません。さらに、その「後」には、デザイン通りに変異が起こったかどうかを確認する遺伝型解析が必要です。しかし、ゲノム編集特有の問題が多く、大変な労力が必要でした。
KOマウス作製が簡便になったとはいえ、その「前後」のプロセスには、大きな課題が残されていました。
KOマウス作製の「前後」をツール開発で支援
私が最初にKOマウスを作製したのは、大学院でマウスを用いて疾患の研究をしていたときでした。その際にゲノム編集デザインの方法を教わりましたが、専門的な知識と経験が必要でした。初心者が自力で高品質なデザインを構築するのは難しいと感じた一方で、その大部分はコンピューターで自動化できるのではないか、とも思いました。
そのような経験から開発したのが、「KOnezumi(コネズミ)」(※1)です。これはKOしたい遺伝子名を入力するだけで、ゲノム編集デザインを全自動で作成するウェブツールです。(図1)。

図1:KOデザイン全自動作製ツールKOnezumi (KOnezumiウェブサイトからのキャプチャー)
実際にマウスを作製したところ、生まれてきたマウスの中に、デザインしたものとは異なるさまざまな「意図しない変異」を持つ個体が多いことに気付きました。従来の遺伝型解析技術では、この「意図しない変異」を正確に同定することが難しかったため、ゲノム編集の結果を一網打尽に解析するツール「DAJIN(ダジン)」(※2)を開発しました。これにより、CRISPR-Cas9が標的とするゲノム領域でどのような編集が起きたのかを、すべて明らかにでき、マウスゲノムの網羅解析も可能です(図2)。

図2:ナノポアシークエンスと深層学習を融合した遺伝型解析ツールDAJIN
左図作成:久野朗広。右の図はhttps://doi.org/10.1371/journal.pbio.3001507の図を改変。図中シーケンサーの図はhttps://doi.org/10.7875/togopic.2017.35(©2016 DBCLS TogoTV)を改変。
個体レベルの表現型から遺伝子群を理解する
「KOnezumi」と「DAJIN」がゲノム編集の「前後」を支援するツールならば、さらにその前段階の「どの遺伝子(群)を狙うと面白い研究ができそうか」という仮説生成をするツールがあるとよいのではないかと着想し、現在、開発を進めているのが「TSUMUGI(ツムギ)」(※3)です。 TSUMUGIはこれまで蓄積された網羅的なKOマウスの表現型情報を活用し、特定の表現型を引き起こす遺伝子群を同定するツールです。生命現象や疾患は、多くの場合、ひとつの遺伝子で決定されるものではなく、複数の遺伝子が互いに影響し合うことで現れる複雑な仕組みをしています。TSUMUGIを通じて、こうした複雑な表現型を生み出す遺伝子ネットワークを読み解くことを目指しています。
私たちの開発するツールによって、マウスを用いた研究が進めば、個体レベルでの遺伝子の働きについて多くの新しい知見が得られると考えています。将来的には、これらの膨大なデータを活用して、異常な表現型に関与する遺伝子どうしの関係性を体系的に明らかにし、疾患理解と医療の発展に貢献したいです。
(取材日:2025年8月27日)
- ※1 https://www.md.tsukuba.ac.jp/LabAnimalResCNT/KOanimals/konezumi.html
- ※2 https://github.com/akikuno/DAJIN2
- ※3 https://larc-tsukuba.github.io/tsumugi/
公開ツールはだれでも無料で利用できます。
